歌は健康に悪かった?

「歌は健康に良い」――そんなイメージを持っていませんか?
私も小さい頃から歌が大好きで、歌えば元気になると信じていました。けれど、この「歌は健康」というイメージは、一体誰が作ったものなのでしょうか。少なくとも私が子どもの頃にはすでに当たり前のようにありました。

歌の練習と「腹式呼吸」

歌は音楽の一部であり、小学校で習った“歌う練習法”こそが歌を上手くする方法だと思い込んでいました。
その後、私はバンド活動にのめり込み、アマチュア大会の最終戦まで進むこともできました。しかし優勝はできない。理由は「歌の基礎と呼ばれている腹式呼吸ができていないから」だと信じてしまったのです。そこから私はボイストレーニングの世界に足を踏み入れました。

ボイトレを続けた日々

音階練習や基礎練習を必死に繰り返しましたが、「これがポップスにどんな役に立つのだろう?」と疑問は消えませんでした。
6年間続けても劇的な上達はなく、むしろ「歌の才能が無いのでは」と思い、プロシンガーの夢を諦めざるを得ませんでした。

作曲と音楽プロデューサーへの道

それでもポップスを諦めきれず、今度は作曲でプロを目指しました。長い道のりを経て、ついにはソニーミュージックの音楽プロデューサーにまで辿り着き、音楽業界全体を見渡せる立場になることができたのです。

ボイストレーニングへの疑問

そんなある日、私はプロシンガーの卵たちにこう尋ねてみました。
「ボイストレーニングって知ってる?」

きっかけは、テレビ番組で“ボイトレ特集”を見たからです。
ところが意外なことに――誰もやっていなかったのです。

え?と私は驚きました。
歌が上手くなるための練習だと信じてきたボイストレーニングを、プロを目指す若者たちが一人も実践していなかったのです。

現場の声

確かに、事務所でレッスンを受けたことがあるシンガーは数人いました。
そこで私はさらに尋ねてみました。
「ボイストレーニングのお陰で歌が上手くなったと思う?」

すると全員が口を揃えて――
「それはない」とハッキリ答えたのです。

私自身も、6年間続けても成果を感じられなかった経験があるだけに、この答えは強烈でした。私はボイストレーニングそのものに、大きな疑問を持ち始めました。

その後の気づき

さらに2年後、芸能スクールから一人の女の子がデビューしました。
正直、歌はそれほど上手いとは言えませんでしたが、アニメソングのタイアップもあってそこそこ売れました。

彼女はスクール時代から知っていた子でしたが、デビュー後も歌自体はほとんど変わっていません。
ただ、2000年以降は歌の編集技術が進んだ時代。
多少未熟でも、レコーディングや加工によって“それなり”に聴かせることができたのです。

クラシックとポップスの発声法の違いに気づいた瞬間

そのアーティストが通っていた芸能スクールで、スタッフから紹介されたのは――なんとオペラ歌手のボイストレーナーでした。
「え?」と驚いたあの瞬間は、今でも忘れられません。

その時、私は気づいてしまったのです。
ボイストレーニングとは、実はクラシックの発声法をベースにしているのではないか?
そして、「だから自分は歌えなくなってしまったのだ」と納得しました。

ただし、そこで疑問は解けたものの、ポップスに本当に合う発声法が分かったわけではありません。
だからこそ私は、ポップスのプロ志望者を助けるためにソニーを辞め、研究の道に入ったのです。

ボイストレーニングの勘違い

ボイストレーニングには大きな勘違いがあります。
それは「歌を音楽の延長で考えている」ということ。

クラシックの発声法は、あくまで楽器と同じように人間を“鳴らす”ための方法であり、江戸時代の日本にポップスという概念が存在しなかった時代に作られたものです。
それをそのまま現代のポップスに持ち込むのは、根本的にズレています。

実際、ボイストレーニングはアメリカで素人がクラシックの発声を用いて始めたもの。
けれど、ポップスに特化した“自由な発声法”は、まだ世界のどこにも存在していません。
もし本当にあったなら、私自身「歌える」ようになり、睡眠時無呼吸症候群などにもならなかったはずです。

歌と健康の誤解

「歌は健康に良い」とよく言われます。
しかし、そう言うのは元々“歌える”音楽大学出身の人たちです。

音大に合格する時点でベルカントの発声法を学ぶ土台があるから、当然クラシックの歌い方のクセがついています。
ポップスの人間だからわかるのですが、ポップスシンガーとクラシックを習ってきたシンガーは違って見えてしまうのです。
テレビやYouTubeで活躍するボイストレーナーの多くも音大出身者ですが、その説明はどうしてもクラシック。

けれども、ポップスは正反対の世界。
クラシックが「型にはまった方法」を尊重するのに対し、ポップスは「型にはまることを嫌う自由なジャンル」なのです。

多数決の弱さとボイトレの誤解

人間は多数決に弱いものです。多くのボイストレーナーが言えば、それを信じてしまいます。
YouTubeの時代になり、素人の発言も「本当らしく」聞こえてしまいます。
ですが――私は20年間の研究で「歌えなかった人が歌えるようになった」ケースを、一度も見たことがありません。
歌は音楽的発想では上手く成れるはずがないからです。

「歌は健康」という勘違い

私が睡眠時無呼吸症候群になった理由も、そこにありました。
本当は「歌は不健康」なものだったのです。
「歌は健康」と言っていたのは、音大に合格できた“元々歌える人たち”にしか当てはまらなかったのです。
すると殆どの日本人、8割以上は蓄膿症の予備軍なので、その人達が生徒に回っています。習う側の大勢の生徒にとっては「歌は不健康に働くもの」と考えられます。
ボイストレーナーは「自分と同じ人間だから歌えるはずだ」という前提で生徒に指導します。
その結果、クラシックの腹式呼吸を基礎にして教えてしまうのです。

実際、「腹式呼吸」と検索すると日本医師会のホームページが出てきます。
それが「正しい呼吸法」と錯覚させる要因となっています。
しかし、ボイストレーニングはベルカント唱法というイタリア・オペラの技術が元。
ポップスに応用できるものではありません。

私の経験と副鼻腔炎

私は「歌は健康」と信じ、毎日歌っていました。
アマチュアバンドで全国大会にも出場しましたが、その頃すでに副鼻腔炎でした。
それに気づかないままボイストレーニングを始め、高音に憧れて毎日腹式呼吸で練習していました。
結果、ポップスが歌えなくなったのです。

腹式呼吸は本来の呼吸を壊してしまう呼吸法。
副鼻腔炎を抱えたまま続ければ、本来使うべき「おでこ」「ほっぺた」の呼吸ができないまま、一生懸命に声を出してしまいます。
NHKでも「日本人の8割が蓄膿症予備軍」と放送されましたが、それこそが歌えない原因でした。

歌は「呼吸」であり、病気とも関係している

私は睡眠時無呼吸症候群を発症し、肺の周囲に炎症が広がり、固まってしまいました。
長い間、麻痺していたため気づけなかったのです。
「歌が上手く歌えない」のは呼吸の病気の症状でした。

人間は本来、生まれつき歌える動物です。
歌は練習でうまくなるものではありません。
プロシンガーのように歌いたいと願っても、“歌い方”では不可能だったのです。

結論:ボイストレーニングはクラシック由来の勘違い

文部省が作った音楽教育はクラシックをベースにしています。
つまり、日本の音楽授業は「ポップスが歌えなくなる方法」だったのです。
ボイストレーニングはポップスから生まれたものではなく、クラシックからの輸入。
その勘違いが、今も多くの人を惑わせているのです。
あなたの呼吸は間違っていませんか?